第113章

橘詩織が勢いよく顔を上げると、いつの間にか目を覚ましていた西園寺玲央の深い瞳と、真正面から視線がぶつかった。

その瞳には、いつもの冷徹さや嘲りはなく、寝起きの気だるさと、彼女には読み取れない深みだけが静かに湛えられている。

「おはよう」

男の低い声。早朝特有の少し嗄れた響きの中に、どこか満ち足りたような倦怠感が滲んでいた。

橘詩織は弾かれたように身を引いた。彼の腕の中から逃れようともがくが、急に動いたせいで傷口が引きつり、思わず「っ……」と痛みの声を漏らして動きを止める。

西園寺玲央の腕はすぐに離れるどころか、今の体勢のまま彼女を抱き留め、ふらついて傷に響かないよう少しだけ力を込め...

ログインして続きを読む