第120章

男の金切り声が鼓膜を刺す。橘詩織は反射的に声の方を向き、双眸を見開いた。

もう避けられない。彼女は唇を引き結び、瞳を閉じた。呼吸が止まりそうになる。

だが、予期していた衝撃と悪臭は降りかからなかった。

代わりに彼女を包み込んだのは、温かく堅牢な抱擁。微かな煙草の香りと、埃っぽい匂いが混じり合い、なぜか安堵を誘う。

詩織は驚愕に目を見開く。視界に映り込んだのは、西園寺玲央の冷ややかな顎のラインだった。

彼はいつの間にか現れ、その広い背中で、飛来した腐った卵を真正面から受け止めていたのだ。

高級なスーツの上で卵が弾け、粘着質の黄色い液体が飛び散る。無惨な姿だ。

群衆が一瞬、静まり返...

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