第122章

男は電話口で何か密談を交わしている様子だったが、数分経ってようやく通話を終えた。

用心深く周囲に視線を走らせ、不審な人物がいないことを確かめると、踵を返して外の小路へと歩き出す。

橘詩織に躊躇いはなかった。即座に歩調を早め、男の背中を追う。

タイトスカートにハイヒールという装いは走るのに不向き極まりないが、彼女は歯を食いしばり、ターゲットから決して目を離さぬよう、必死に足を動かし続けた。

グレーのジャケットを羽織ったその男は、付近の地理を熟知しているらしい。狭い路地ばかりを選んで入り込み、複雑なルートを縫うように進んでいく。

やがて数本の路地を抜け、男は通りに面した年季の入った雑居...

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