第145章

室内は静まり返り、二人の規則正しい呼吸音だけが響いていた。

西園寺玲央は決裁の必要な最後の診断書を置くと、鈍く痛むこめかみを揉んだ。視線を習慣的に物陰のデスクへ向けたが、そこには広げられた資料があるだけで、人の姿はなかった。

彼は立ち上がり、大きな執務机を回り込むと、橘詩織が脇のミーティングテーブルに突っ伏して眠っているのが目に入った。

照明の下、彼女の濃い睫毛が瞼に小さな影を落としている。夢の中でも無意識に眉を顰め、緩く握られたペンの先からは、診断書の端にインクの滲みが広がっていた。

西園寺玲央の視界に、診断書に事細かに書き込まれた真面目なメモが入る。胸の奥に、ふいに柔らかな感情が...

ログインして続きを読む