第147章

橘詩織はベッドの縁に腰を下ろしたまま、身じろぎもしなかった。

長い沈黙の後、ようやく顔を上げた彼女は、能面のような無表情で休憩室を出る。

バッグを手に取ると、誰もいない社長室を振り返ることもなく後にし、深夜の静寂に包まれたエレベーターへと乗り込んだ。

ラッシュアワーはとうに過ぎ去り、残業していた社員たちもほとんど帰宅してしまった時間帯だ。

ビルの前の広場は閑散としており、頼りない街灯が孤独な光の輪を落としているだけだった。晩秋の冷気を帯びた夜風が、彼女の薄手の服を容赦なく吹き抜けていく。

橘詩織は路肩に立ち、配車アプリを起動しようとスマートフォンを取り出した。

画面の光が、血の気...

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