第162章

しかし白川亜希(しらかわ・あき)の予想に反し、仁杉(ひとすぎ)秘書は彼女が差し出した手も、その媚びるような笑顔も目に入っていないかのように、彼女の脇を迷いなく素通りしていった。

その足取りは止まることなく、白川亜希たちに囲まれている橘詩織(たちばな・しおり)のもとへと一直線に向けられている。

そして、周囲の驚愕の視線が注がれる中、仁杉秘書は橘詩織の一歩手前で足を止め、軽く一礼した。その所作は非の打ち所がないほど恭しく、明瞭かつ落ち着いた口調で切り出した。

「橘社長。ご所望の城西(じょうさい)支社の過去三年分の全運営データおよび主要な人事ファイルにつきましては、先ほど一次整理を終え、メー...

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