第170章

橘詩織は水を飲み終えたグラスをサイドテーブルに戻すと、再起動したばかりのスマホを手に取った。画面を埋め尽くす未読メッセージや不在着信の通知を淡々と無視し、ある番号へと発信する。

コール音はすぐに途切れ、祖父が派遣してくれたアシスタントが電話に出た。その声には焦りが滲んでいる。

「橘社長、お加減はいかがですか? お体は……」

「大事ないわ」

橘詩織は彼の言葉を遮った。声にはまだ虚弱な響きが残るものの、その口調は理路整然としていた。

「工場の部品破損の件、あまりにタイミングが良すぎる。裏で何かが動いている可能性が高いわ。調べてちょうだい」

「承知いたしました、橘社長」

「いい? 極...

ログインして続きを読む