第172章 鼓動が抑えきれない

その認識は、彼女の脳裏に二日前の夜の記憶を否応なくフラッシュバックさせた。

一条家のリビングで、二人の間に流れた艶めかしい熱気。理性があわや決壊しかけた、あの一瞬を。

ゆっくりと近づいてくる端正な顔立ち、肌を焼くような吐息。そして、あの深淵のような瞳に渦巻いていた感情――当時は読み取れなかったものが、今なら少しだけ理解できる気がした。

熱がじわりと耳根へ這い上がり、心臓が不規則に一度跳ねたかと思うと、次の瞬間には激しく早鐘を打ち始める。

彼女は視線を伏せた。長く密な睫毛が二つの扇のように下り、瞳の奥を過った狼狽と、自分でも気づかなかった一抹の……密かな喜びを覆い隠す。

彼女は彼のみ...

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