第6章

午後八時、部屋のドアが開いた。

七海がミルクの入ったグラスを手に、見たこともないような作り笑いを浮かべて入ってきた。その笑顔に、肌が粟立つ。

「美和」彼の声は、毒を仕込んだ綿菓子のように、吐き気のするほど甘ったるかった。「話せるかな?」

私は振り向かなかった。「嫌だ、話すことなんて何もないわ」

以前の美和なら、決して彼にそんな口の利き方はしなかっただろう。以前の美和なら、喜んで飛び上がり、どんな些細な優しさにも必死にすがったはずだ。

でも、以前の、あの従順な美和はもう死んだ。

七海は私のベッドに腰掛け、ナイトスタンドにミルクを置いた。「確かに、今までの俺は君に優しくな...

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