第86章

数人は、声を上げて泣き崩れる吉川貴弘を見つめたまま、かける言葉を失っていた。

人が死ぬとき――誰にも止められない。

全身に管を繋がれ、最期の瞬間まで苦しみ続けるくらいなら。いっそ手を放して、楽にしてあげたほうがいい……。

紬が宥めるように言う。

「ほらほら、吉川おじさん、泣かない。泣いたら――」

そのとき吉川貴弘が顔を上げた。

鼻水がべったり顔じゅうに広がっている。

紬は反射的に二歩ほど下がり、言葉が喉でつかえた。慰めの一つも出てこない。

ふわり、と傍に漂う吉川婆さんが、心底うんざりした顔で吐き捨てる。

「泣き方が汚すぎるわ! いい歳して、鼻水が口に入ってるじゃない……」

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