第11章

沈村薫子は藤原の爺さんの掛け布団の端をきちんと整え、踵を返して病室を出た。

廊下の突き当たり。藤原智史が壁にもたれ、煙草をふかしている。ネクタイはぐにゃりと歪み、足元には灰が散らばっていた。

足音に気づき、彼が顔を上げる。

――これだけのことがあったのだから、せめて一言くらい「爺さんはどうだ」と聞くと思った。

けれど藤原智史は煙草を揉み消し、ずかずかと距離を詰めてきた。眉間に深い皺。開口一番、

「今すぐ会社に戻れ」

沈村薫子は一瞬、耳を疑った。

「……今、なんて?」

藤原智史の視線が、包帯を巻いた彼女の左手へ落ちる。そこにあるのは労わりではなく、苛立ちと焦燥だけ。

「秋の発...

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