第23章

沈村薫子は俯いたまま、冷えきった視線を彼の手元に落とした。瞳の奥に、温度はひとかけらもない。

「藤原智史。言わないなら言わないで、私も本当に忘れるところだった」

次の瞬間、彼女は容赦なく腕を振りほどいた。

「わざわざ思い出させてくれるなんて助かる。弁護士に探させる手間も省けたわ。明日、午前9時。市役所の前で」

「薫子……」

藤原智史は、信じられないものを見るように、決別の背中を見つめた。

「名前で呼ばないで」

沈村薫子は振り向きもしない。歩道の縁にちょうど止まったタクシーへ、迷いなく向かっていく。

噴水のそばには、藤原智史だけが取り残された。顔色は土気色で、足が地面に縫い留め...

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