第26章

「なんでダメなのよ?」奥様が黙っていられず、目を丸くして食ってかかる。「娘にするだけじゃない。あんたに関係ある?」

松野博は自分の失態に気づいたのか、薄い唇をきゅっと結んだ。手の甲を口元に当て、低く咳払いをひとつ。眼底の暗い光を押し隠す。

「俺は藤原智史が嫌いです」

冷えた声。遠慮も建前もない。

「母上が彼女を養女にしたら、藤原智史は俺の義弟になる。……目障りだ」

今度は沈村薫子のほうが言葉を失った。

感情を表に出さない、商界の大物。そんな男が、ここまで子どもみたいに、好き嫌いを直球で口にするなんて。

でも――藤原智史が嫌い?

敵の敵は味方、ってやつだ。

沈村薫子の中で、松...

ログインして続きを読む