第31章

会議室はその瞬間、しんと凍りついた。役員たちは一斉に視線を落とす。誰もが知っている。松野様が会議中、いちばん嫌うのは「邪魔」だ。

松野博は眉をわずかに寄せ、気だるげにスクリーンへ目をやった。

――だが、表示された名前を認めた刹那。

卓上を軽く叩いていた指が、ぴたりと止まる。

薫子。

昨夜、彼が自分で変えたばかりの登録名だった。

深い眼差しの奥を、ふっと柔らかな光がよぎる。

迷いはない。松野博は片手を上げて会議の中断を示し、そのままスマホを取って通話を繋いだ。

「薫子?」

低く、温い声。さっきまでの冷徹な経営者とは別人みたいだった。

同席していた幹部たちは、思わず互いの顔を...

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