第37章

沈村薫子は、さっきまで曇っていたのに、急に晴れたみたいな顔になった男を見て、正直どう反応していいか分からなかった。

松野博の言葉に滲んでいた独占欲や、探るような意図など――彼女はまったく聞き取っていない。

ごく自然に、しかも堂々と首を横に振って否定する。

「いえ、そういうわけでもないですよ。男性のお客様だと、採寸や仮縫いのときに、私が直接ネクタイを結んで差し上げることもよくありますし」

その瞬間、ついさっきまで春みたいにやわらいでいた松野博の整った顔が、ぴたりと固まった。

沈村薫子の瞳は澄み切っていて、遠慮も裏もない。むしろ、プロとしての小さな誇りすら滲ませている。

松野博は黙っ...

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