第49章

退院してからも、沈村薫子は自分を遊ばせなかった。

右手にはまだガーゼが巻かれている。それでも彼女は、左手で図面を押さえ込み、右手で――あまりにもゆっくり、あまりにも不器用に――線を引いた。

布地と色とラインの世界に沈み込んでいる間だけ、ゴルフ場で味わったあの悪夢みたいな恐怖を、ほんの少し忘れられる。

気づけば、仕事に没頭していた。

そして三日後の朝。一本の電話が入る。

「沈村様、おはようございます。林原のアシスタントでございます」

受話器の向こうの声は、いつも通りきっちりとして、隙のない丁寧さだった。

「松野様より、本日14時に博グループ本社へお越しいただけますでしょうか。スタ...

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