第51章

沈村薫子は、ぴたりと固まった。

ほとんど反射だった。身を守るより先に体が動き、彼女は背後の男を両手で強く突き放す。

よろめくように二歩、三歩と後ずさり、冷えたキッチンカウンターの角に背中を強くぶつけて、ようやく立ち止まった。

呼吸が浅い。乱れた息のまま、目の前の男を見つめる。

「松野様……あなた、どういうおつもりですか」

腕の中から、ふっと熱が消える。

松野博は、彼女の目に浮かぶあからさまな怯えと警戒を見た。まるで、自分が悪意を持って踏み込んできた侵入者であるかのように。

上下した喉仏が、わずかに止まる。

さっきまで黒い瞳の奥で渦巻いていた、狂おしいほどの独占欲。けれど彼女の...

ログインして続きを読む