さようなら、社長。976 閲覧数 · 連載中 · 雫夫は、声が出せない私を軽蔑している。結婚式の直後にはもう、離婚届を用意していたのだ。あろうことか、私の目の前に憎いあの女を連れてきて、『彼女は妊娠した』と、そう言い放った。私がどれほど夫を心の底から愛していたか、誰もが知っていたはずだ。彼のためなら、私はすべてを捧げた。彼を庇って、ピアニストにとって命ともいえるこの指が二度と動かなくなってしまっても……。そんな私を、誰もが嘲笑っていた。けれど私は、迷うことなく離婚届に署名し、永遠に彼の前から姿を消した。偽装恋愛