第7章 生きていることを皆に知らせたい

椎名美月はゆっくりと目を開けた。記憶は煙のように薄れていく。B市の夜風は今もあのジャスミンの香りを運んでくるが、彼女の眼差しは苦痛から氷のように冷たい決意へと変わっていた。

彼女はバルコニーの手すりからワイングラスを手に取り、ゆっくりと一口飲んだ。口の端に冷たい笑みが浮かんだ。

五年。浅倉早苗が死んでから、もう十分な時間が経った。今度は、椎名美月が貸しを返してもらう番だ。

彼女はスマートフォンを掴み、水野奈津に電話した。

「奈津、始める時間よ。まずは森本日織から」

「やっとね」

スピーカーから水野奈津のざらついた声が聞こえた。

「何をさせたいの?」

「森本日織に関す...

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