第3章
イザベラ視点
偽装死?
「マーカス、無理よ……私、妊娠しているの」
私は震える声で、その秘密を打ち明けた。
マーカスの顔がさっと青ざめた。
「ああ、神様……それなら絶対にアレクサンダーに知られてはなりません! お嬢様が妊娠していると知ったら、彼は決してお嬢様を離さないでしょう!お嬢様は永遠に彼の囚人になってしまいます!」
「でもこの薬……赤ちゃんに害はないの?」
マーカスは長い間黙り込み、その声は老いたようにかすれていた。
「お嬢様……この薬は……流産を引き起こす可能性があります」
「いや!」
私はお腹をかばった。
「この子を失うわけにはいかない!」
「お嬢様、ここを離れなければ、あなたもお子様も死んでしまいますよ!」
ちょうどその時、階下から足音が聞こえてきた。
「誰か来る!」
マーカスの顔色が変わった。
「お嬢様、私はもう行かねば! この薬のことはよく考えてください、しかし、時間はあまりありません!」
彼は小瓶を私の手に押し付け、素早く窓へと向かった。
「マーカス!」
マーカスは振り返ることなく、闇の中へと消えていった。
部屋は再び静寂に包まれた。
私は小さな小瓶を握りしめ、手が震えていた。中の液体が薄暗い光の中でキラリと光る。
足音はだんだん近づいてきて、ドアの外で止まった。
ドアの鍵が回る音。
私は急いで小瓶を隠し、服を整理しているふりをした。
ドアが押し開けられた。
体にぴったりとフィットした赤いドレスの女が入ってきた――金髪に青い目、厚化粧。
私の血は瞬時に凍りついた。
「ソフィア?」
ありえない! こんなこと、ありえない! 彼女は死んだはず! 二年前、彼女が私の子を殺したせいで、アレクサンダーが直々に彼女を処刑したと私に告げたのだ!
だが彼女は今、私の目の前に、紛れもなく生きて立っており、そして冷たく微笑んでいた!
「あらあらあら、これは誰かと思えば」
ソフィアは歩き回りながら笑った。
「我らが気高きイザベラ様じゃない? 驚いた? 本当に私が死んだとでも思ってた? アレクサンダーもなかなかの役者でしょう?」
「どうして……どうして生きているの?」
私は信じられない思いで彼女を見つめ、全身が震えた。
「あら、愛しのイザベラ」
ソフィアの笑みは氷のようだった。
「アレクサンダーが、彼のお気に入りのベッドの相手を殺すとでも思った?」
何ですって?
「今のあなたを見て!」
ソフィアはゆっくりと私に近づいた。
「高貴な名家のお姫様から、自宅に監禁される囚人へ。寝室からも出られないなんて――なんて惨めなのかしら!」
「この雌犬が!」
私は立ち上がった。
「あなたは死ぬべきだったのよ! 私の子を殺したくせに!」
「ええ、あの子に毒を盛ったわ」
ソフィアは平然と認めた。
「でも、誰が命令したか知りたい?」
「いや……」
私は首を横に振った。信じたくなかった。
「アレクサンダーよ」
ソフィアの笑みが歪んだ。
「あなたの愛する夫が、直々にあなたの子の死を命じたの。あの頃の彼の地位はまだ不安定だったから――跡継ぎを産ませるわけにはいかなかったのよ」
「嘘よ!」
私は甲高い声を上げて叫んだ。
「嘘つき!」
「嘘? イザベラ、本気でアレクサンダーがあなたを愛しているとでも? あなたはただの道具よ! 権力を固めるための駒にすぎないの!」
私は彼女に飛びかかり、喉を掴もうとした。
「殺してやる!」
「私を殺すですって?」
ソフィアは身軽にかわし、嘲笑した。
「身の程を知りなさい!」
私たちはもみ合った。私は彼女の髪をきつく掴む。
「この売女め、死ね!」
ソフィアが私の腹に膝を入れた。私はうめいて彼女を放したが、再び飛びかかり、爪で彼女の頬を引っ掻いた。
「離しなさいよ!」
ソフィアは叫び、私の顔を打ち返してきた。
私たちが床を転がりながら争ううちに、家具は倒れ、グラスは砕け散った。
「私たちがどれだけ長く一緒にいるか知ってる?」
ソフィアは息を切らしながら、獰猛に微笑んだ。
「あなたの結婚式の夜でさえ、彼は私のベッドで楽しんでいたのよ!」
「やめて! 黙れ!」
私は床から立ち上がり、再び彼女に襲いかかった。
「彼は言っていたわ、あなたと愛し合うのは義務をこなすようなものだって――死ぬほど退屈だとね! 私といる時だけ、本当の情熱を感じるのよ!」
私は完全に我を失い、必死に彼女を攻撃したが、彼女に突き飛ばされ、壁に激しく体を打ち付けた。
「ああ、そうそう」
ソフィアは去り際に、私をちらりと見た。
「あなたに伝えてほしいそうよ――明日の夜、例の和解の会合はまだあるわ。もし今度も断るようなら、それ相応の結果になるって」
ドアが閉まった。
部屋は死のような静寂に包まれた。
私は呆然と床に座り込み、魂が抉り取られたような気分だった。
そう、すべてが嘘だったのだ。
そう、私は最初から最後まで、ただの茶番の道化だったのだ。
私は震える手で小瓶を取り出し、中の透明な液体を見つめた。
これが私の救いであり、そして私の呪い。
私はそっとお腹に触れ、涙が静かにこぼれ落ちた。
「赤ちゃん、ごめんなさい。ママはあなたを、こんな裏切りに満ちた世界に産んであげるわけにはいかない。あんな悪魔の子になんて、させられない」
私は小瓶を掲げた。
今度こそ、誰も私を止められない。
私は小瓶を一気に呷った。
苦い! どんな毒よりも苦い味が瞬時に口いっぱいに広がり、喉を液体窒素のように焼いた。
そして、痛みが始まった。
最初は胸だった。ナイフでゆっくりと抉られるような痛み。心臓が不規則に鼓動し始め、一打ちごとに肋骨から飛び出しそうだった。
「ああぁ……」
私は痛みに呻き、ベッドの上で体を丸めた。
次に血管。まるで無数の針が同時に突き刺すかのようだった。
私はベッドシーツを握りしめ、爪が布地を引き裂きそうになった。
「マルコ……」
私は苦痛の中で兄の名を呼んだ。
「お兄ちゃん……迎えに来て……」
下腹部が引き裂かれるような痛みに襲われた。それが何を意味するかわかっていた。
私の子が……私の赤ちゃんが……
「いや……やめて……」
止めようとしたが、体はもう言うことを聞かなかった。
温かい液体が脚の間を伝う――それが血であることはわかっていた。
私の子が、私から離れていく。
「ごめんなさい……ごめんなさい……赤ちゃん、ごめんなさい……」
私はヒステリックに泣いたが、その涙さえも粘り気を帯びてきていた。
視界がぼやけ始めたが、記憶は不思議なほど鮮明になっていく……。
C大、春の午後、桜が舞っていた。
若き日のアレクサンダーが、法学部の入り口でおどおどと立っていた。手には安物の薔薇の花束。
「ベラ、俺……コーヒーでもどうかな?」
あの頃の彼は、あんなにも謙虚で、誠実そうに見えた。その瞳の奥の深い愛情は、これが真実の愛だと私に信じさせた。
「ベラ、命に懸けて君を守り、愛し抜くと誓う。君なしでは、俺は無価値だ」
すべて、嘘だったのだ。
