第58章 誘拐

「師匠?」

相沢千夏の動きが、ぴたりと止まった。

脳裏に、いくつかの断片がよぎる。

子どもの頃、村で自分や妹をいじめる連中としょっちゅう取っ組み合いになっていた。あのとき確か、年配の男が善意でコツを授けてくれた――あれが、師匠と呼べる存在だったのかもしれない。

けれど、その男の素性も経歴も知らない。弟子入りした期間も短く、師匠が世間話をするような相手でもなかった。

「あなた……」

問いただそうとした、その瞬間。

横合いから屈強な男が突っ込んでくる。千夏は舌打ちし、先にそいつをさばいた。

「師匠はたくさん弟子を取った。でも、ほとんどはモノにならなかったわ」

短髪の女が鼻で笑う...

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