第73章 彼を失望させなかった

夕暮れの病院。

研究棟のラボは、白い照明がやけに眩しかった。

氷川隼人は窓の外に立ち、ガラス越しに中を観察する。白衣の研究員が数人、実験台を囲んで慌ただしく手を動かしていた。

「氷川社長、結果が出ました」

医長が報告書を手に近づいてくる。表情は硬い。

「この化学式は、確かに薬剤の処方です。ただし用途が特殊でして……極めて稀な遺伝性の血液疾患の治療に使われるものです」

「現時点で、世界の確定診断は五百例未満」

医師は声を低く落とす。

「血液凝固機能に障害が生じ、軽微な外傷でも大量出血につながります。治療が遅れれば、救命はかなり難しくなります」

氷川隼人は眉間に皺を寄せた。

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