第119章

「……今夜は無理だよ、また今度にしよう」

西村達也は少し躊躇った後、珍しく承諾した。彼女がカラオケを好きなら、付き合おう。

——

夕方の五時半。

水原花子は階段を下り、白いセダンに乗り込んだ。

西村達也は車内で資料に目を通していた。横顔を見ると、長くカールした睫毛、資料を持つ指先まで関節がくっきりとしている。どの角度から見ても、極めて魅力的な男だった。

水原花子はいつも容姿を重視する人間だった。

そうでなければ、最初から佐々木悟と付き合うこともなかっただろう。佐々木悟は桐市でも指折りのイケメンだったが、西村達也と比べると、オーラも容姿も一段劣るように思えた。

今や彼女が佐々木...

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