第2章
私はそのインスタグラムの投稿を、十分間ほども呆然と見つめていた。新しく【いいね】がつくたびに、顔面に平手打ちを食らうような心地がした。
腕の中では紗織が眠りに落ちていた。小さな拳を握りしめ、私の胸に寄り添っている。少なくともこの子だけは安らかだ。自分の祖母から、価値のない存在だと思われているなんて、まだ知る由もない。
ドアをノックする音に、顔を上げた。「どうぞ」
入ってきたのは美智だった。小さな紙袋を手にしている。彼女はまるで自分の家であるかのように部屋に入ってくると、私の質素な部屋を満足げに見回した。
「少しでも落ち着けるように、差し入れを持ってきたわ」と彼女は言い、ナイトスタンドに袋を置いた。「美味しいお茶とクラッカーよ。大したものじゃないけれど、あなたの今の状況には相応しいでしょう」
そうね、私の状況。まるで私が哀れみの対象だとでも言うように。
「隣の部屋からいくつか持ってきたいものがあるんです」私は慎重に立ち上がりながら言った。「紗織の特別なミルクと、私の私物をいくつか」
「あら、それはもう済ませておいたわ」彼女は面倒くさそうに手を振った。「本当に必要なものは、すべて移動させておいたから」
「私の宝石箱は? それと、小児科の先生に勧められた輸入物のミルクは?」
美智の表情が冷たくなった。「あなたの宝石? 玲奈が写真撮影のためにいくつかお借りしたわ。彼女の赤ちゃんの生後一週間を記録しているの。見栄えのする格好をしないと。わかるでしょう」
「借りた?」思ったよりも鋭い声が出た。「私に断りもなく?」
「一時的なものよ。それに、今のあなたが宝石なんていつ着けるっていうの? 社交の場に出かけるわけでもないでしょうに」彼女は私の脚に意味ありげな視線を投げた。
その何気ない残酷さが、殴られたかのような衝撃だった。「あれは、両親からの贈り物なんです」
「そして今、有効活用されているというわけ。玲奈は誰かさんと違って、写真写りがとてもいいのよ。カメラに愛されているの」
誰かさんと違って。つまり、私のことだ。
「返してください。それと、紗織の特別なミルクも必要です」
「そのミルクは、もっと重要な目的のために使われているの。玲奈はまだ母乳の出が十分じゃないから。東雲家の男の子を、お腹を空かせたままにしておくわけにはいかないでしょう」
「紗織にもあのミルクは必要です。あの子はお腹がデリケートなんです」
美智は笑った。ガラスが割れるような甲高い笑い声だった。「あなた、少しは理解なさい。蓮司と玲奈こそが、真のA国の家族なの。あの子たちの子供が、A国の伝統と価値観を受け継いでいくのよ」
「じゃあ、私は何なんですか?」
「息子があなたを哀れんで拾ってやった、幸運な外国人の女よ」彼女は一歩近づいた。「あなたたちM国の人たちは、いつも自分が得たもの以上に値すると思い込んでいる。海翔はあの事故からあなたの命を救い、自分の名前を与えてやった。それでもまだ、もっと欲しがるのね」
あなたたち。その言葉が、毒のように空気中に漂った。
「娘のために買われたものを、娘にあげてほしいだけです」
「あなたの娘には必要なものが与えられるわ。女の子には普通のミルクで十分。高価なものは、この家の未来にとって重要な子供たちのために使うべきよ」
重要な子供たち。紗織ではなく。
「このことは、海翔に話します」
「どうぞ、お好きに」美智の笑みはカミソリのように鋭かった。「でも、覚えておきなさい。海翔は物心ついた時からずっと私を知っている。でもあなたは? あなたはただ、彼が義務感から『治してやらなければ』と感じた、壊れた女にすぎないのよ」
彼女が去った後、私は紗織を抱いたまま座り込んでいた。怒りで手が震えていた。
二十分後、海翔がノックして入ってきた。コーヒーを手に、私が見慣れ始めていた罪悪感に満ちた表情を浮かべている。
「よう。母さんから、話があるんだって聞いたけど」
「彼女が私の宝石を。それに、紗織の特別なミルクも」
「恵蓮……」彼は深いため息をついた。「数日のことだ。玲奈は赤ちゃんの写真のために綺麗にしてなきゃいけないし、彼女の息子にはより良い栄養が必要なんだ」
「はあ?息子? じゃあ、私たちの娘はどうなるの?」
「紗織は普通のミルクで大丈夫だ。母さんは健康な男の子を二人も育てたんだ。赤ちゃんに何が必要か、よく知ってる」
「先生が、紗織の消化のためにって、特にあのミルクを勧めてくれたのよ」
海翔は髪を手でかき上げた。「なあ、少しは柔軟になれないか? これは母さんにとって大事なことなんだ。孫息子ができたってことが、彼女にとって全てなんだよ」
「じゃあ孫娘ができたことは、何の意味もないの?」
「そんなことは言ってない」
「そう思ってるってことでしょう」私は彼を、本当の意味で、じっと見つめた。「基本的な公平さを求めただけで、いつから私が理不尽な人間になったの?」
「理不尽だなんて言ってない。ただ……お前はちょっと、大局を見ずに、些細なことにこだわりすぎてるんじゃないか」
「些細なこと? ふざけるな!私たちの娘が、ちゃんと栄養を摂れるようにするってことが?」
「育児のことなら母さんが一番よく知ってる。経験豊富なんだから」
胸の中に、何か冷たいものがすとんと落ちてきた。「あなたはどっちの味方なの、海翔?」
「味方も何もない。俺たちは家族だろ」彼は私の手を握ろうとした。「母さんの立場も理解してやれないか? やっと孫息子ができて、ただ興奮してるだけなんだ」
やっと。またその言葉だ。
「紗織の誕生を喜んでくれてはいないの?」
「喜んでるさ。彼女なりに、な」
私は彼の手を振り払った。「お母さんは、私のことを、あなたが義務感から治してやった壊れた女だって言ったわ」
海翔の顔が赤くなった。「そんな意味で言ったんじゃない」
「じゃあ、どういう意味だったの?」
「母さんは俺に対して過保護なんだ。時々、言い方を間違えることがある」
「言い方を間違えるの? それとも、本心でそう思ってることを口にするの?」
彼は長い間黙り込んでいた。そして言った。「恵蓮、お前がもう少し母さんと仲良くしようと努力すれば、彼女もお前に心を開いてくれるかもしれない」
私の心は沈んだ。「じゃあ、これは私のせいだと?」
「ただ言ってるんだ。こんな争いばかりじゃ、誰のためにもならない。特に、紗織のためにはな」
彼が去った後、私は三年前の事故以来、感じたことのないほどの孤独を感じていた。
紗織を寝かしつけ、小さな窓辺へ歩いていった。ここからは、眼下の中庭にいる他の家族の姿が見えた。ベビーカーを押す幸せそうな夫婦、写真を撮る祖父母。
普通の家族。性別に関係なく、赤ちゃんの誕生が祝福される場所。
薄い壁を通して、廊下の向こうから美智の声が聞こえてきた。電話中で、その言葉ははっきりと響いてきた。
「あの足の不自由なM国人がやっと子供を産んだわ。ただの娘よ、うちの子と競合する男の子じゃなくて本当に良かった。 蓮司と玲奈にはすぐにでももっと子供を産んでもらわないと。東雲の家名を継ぐ、本物の血筋をね」
私は壁に耳をさらに押し付けた。
「恵蓮は自分がここの一員だと本気で思っているみたい。海翔がしてやったこと全てを考えれば、東雲の名前をもらえただけで感謝すべきなのに。でも、ああいう人たちはいつも、自分が値する以上のものを欲しがるのよ」
ああいう人たち。怒りの涙で視界が滲んだ。
「もっと孫息子ができれば、恵蓮も自分の立場をわきまえるでしょう。あの子の小さなM国人の娘なんて、A国生まれの東雲の男の子たちほど重要になることは絶対にない。そうすれば、あの子もいちいち細かいことにうるさく言うのをやめるかもしれないわね」
私は壁から後ずさりした。全身が震えていた。
紗織は、彼らにとって決して重要な存在にはなれないのだ。手のかかる子だからとか、何か問題があるからではない。ただ、彼女が私の子供だから。女の子だから。彼女の血が、十分に「純粋」ではないから。
そして海翔も、決して私たちをそのことから守ってはくれないだろう。
