第56章

実のところ、藤原英世が「痣」という要素に思い至ったのは、西原雨子の肩にあるあの痣を思い出したからだった。

それでわざわざ羽村を呼びつけ、確かめたのだ。

だが、藤原英世の問いに、羽村は首を横に振った。

「夏目奥様のところへ行っても無駄です。あの方は気が触れてから、もう誰のことも分からないんです。何を訊いても、まともに通じません」

藤原英世はなおも食い下がる。

「杉浦寧音さんのことを訊いても、やはり覚えていないのか?」

「ええ。まるで駄目です。それにしつこく訊くと、今度は取り乱して……みんな娘を奪おうとしてる、って騒ぎ出すんですよ」

羽村の声には、どうしようもない苦さが滲んでいた。...

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