第53章

島宮奈々未は会社に戻ったが、心ここにあらずという状態だった。

会わなければまだ良かったものの、一度会ってしまうと、どうしても心が落ち着かない。付き合っていた頃の記憶が次々と蘇ってくる。

島宮奈々未は頭を振った。もう考えるのはやめよう。別れたのだから、潔くあるべきだ。

島宮奈々未が給湯室で水を汲みに行くと、同僚たちが集まって噂話をしており、彼女もすぐにその輪に引き込まれた。

「島宮さん、一緒に支社から来たという天瀬姫奈さん、よく知ってる?」

「あまり親しくないけど、どうしたの?」島宮奈々未は首を傾げた。

本社に来てから、その天瀬姫奈とは一度も会っていなかった。同僚が言い出さなければ...

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