第63章

桜山と聞いて、島宮奈々未は少し気が重くなった。

会社から四十キロの道のりで、往復するだけで三、四時間はかかる。

山道は険しく、定時までに戻ってこられないかもしれない。

それでも、仕事の頼みを島宮奈々未は断らなかった。

綾田清子が言った。

「会社の車を使いなさい」

「分かりました」

島宮奈々未は頷いた。

「少し準備をして、すぐに出発します」

島宮奈々未は手洗いを済ませてから、地下駐車場へと向かった。

戻りが遅くなることを懸念し、先に安島若菜に電話をかけた。

「若菜、ちょっと急用で山まで行かなきゃならなくて。後で私の代わりに幼稚園へ太郎を迎えに行ってくれない?」

「太郎?...

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