第117章

田中辰哉は引っ張りだこだった。会場の誰もが彼に取り入ろうとし、挨拶の輪は途切れない。大島莉理もその隙を縫って、名のある面々と次々に名刺を交わし、顔を売っていった。

――けれど、社交は体力を削る。

莉理は早々に場を抜け、壁際の休憩スペースへと滑り込んだ。ようやく手にしたグラスの赤を、喉へ静かに落とす。

そこへ田中尚哉が来た。

尚哉は彼女の手元を見て、眉をわずかに動かす。

「お前、酒は嫌いだっただろ」

莉理は淡く唇を濡らすだけで答える。

「昔嫌いだったからって、今も嫌いとは限らないわ」

その一言が、尚哉の胸に鈍く沈んだ。

――昔好きだったからって、今も好きとは限らない。

視線...

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