第120章

田中家。

田中爺さんは書斎の椅子にきちんと腰を下ろし、掌の中で鉄の玉を二つ転がしていた。長年磨かれたそれは、ぬめるほど艶やかに光っている。

目の前に立つ山本さんが、淡々と報告した。

「外では、かなり騒ぎになっております。若奥様が不貞を……という話もあれば、尚哉さんのほうが……という噂も……」

山本さんは言いよどみ、田中爺さんの顔色を窺う。口にするのも憚られるほど、下世話な言葉が飛び交っていた。

だが、山本さんも分かっている。爺さんが聞きたいのは、そこではない。

田中爺さんが目を上げた。老いてなお冴えた眼光。

「要点を言え」

「……はい」

山本さんは視線を落とす。

「辰哉さ...

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