第189章

人混みの中で、ひとりがこそこそと逃げようとした。だが警備員に容赦なく引きずり出される。背の高い、痩せた男。

手には卵を握ったまま。引っ張り出された途端、もう逃げるのをやめ、壇上の数人を睨みつけた。とりわけ大島莉理に向ける目は、今にも生きたまま噛み砕きそうな憎悪で濁っている。

「大島莉理! さっさと死ね!」

男の眼底の怨みは、濃すぎて息苦しいほどだった。大島莉理は前田美咲の手からティッシュを抜き取り、肩を拭いながら男を冷ややかに見据える。

「……あなた、誰? 私、あなたのこと知らないんだけど」

「そりゃ知らねえよな。お前みたいに高いところにいる女が、俺みたいなのを知るわけがない!」

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