第60章

「起きろ。薬だ」

その声は少し掠れ、有無を言わせぬ響きを帯びていた。

沈川澪は腕で身体を支えて起き上がろうとしたが、力が入らずぐったりとしていた。

藤原司は眉をひそめると、そのまま身を屈めた。長い腕を彼女の背中に回して抱き起こし、手早く背後に枕をあてがう。

彼から漂うシダーウッドの香りと、微かな煙草の匂いが鼻をくすぐった。

沈川澪は身体を強張らせ、本能的に後ずさるようにして距離を取ろうとした。

倒れる直前、二人の間で交わされたあの剣呑な言い争いを、まだ忘れてはいなかった。

その拒絶の仕草はわずかなものだったが、藤原司の目から逃れることはできなかった。

グラスを持った彼の手が宙...

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