第144章 申し訳ない、手は尽くした

 如月海という男は、生来冷淡な性質でありながら、普段は極めて紳士的な振る舞いを崩さない人物だ。

 だが今、その双眸は血走り、いつもの理知的な姿は見る影もなかった。

「生まれる前の胎児なんて、人とは言えません! たかが肉の塊のために、彼女を痛みで死なせるつもりですか?」

 如月海の怒号は凄まじく、平素は厳格で知られる金近富枝でさえ、一瞬たじろぐほどだった。

 金近は病床の秋月雫に視線を落とした。眉をわずかに顰めてはいるが、それでも鎮痛剤の投与を指示しようとはしない。

 むしろ、如月海の叫び声が呼び水となったのか、秋月雫の意識が幾分か鮮明になったようだった。

 彼女はベッドに力なく横...

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