第153章 雫、泣かないで。誰にも傷つけさせない

具体的な名前が出たわけではない。それでも、秋月雫の脳裏には瞬時に高杉蓮の姿が過った。

 瞳にわずかな逡巡が浮かぶ。だが足を止めることはなく、彼女は如月海と共にその場を後にした。

 宴会場を出てようやく、彼が口を開いた。

「さっき、白川ゆらは君になんて言ったんだ?」

「気づいてたの?」

 雫は驚きを露わにする。

 すれ違いざまの自然な動作だったし、白川ゆらの声は低く、第三者に聞こえるようなものではなかったはずだ。

 彼は口元を緩めた。

「あの女、不倫相手の分際で真実の愛だと持て囃され、教養の欠片もないくせに美人博士と長年崇められている。一筋縄ではいかないな」

 如月海は白川ゆ...

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