第180章 個室を間違えた

白川ゆらは内心で舌打ちしながらも、その感情を微塵も顔に出さなかった。

「すぐに行くわね。遅刻しちゃだめよ?」

 甘く柔らかな声色でそう告げ、彼女は踵を返した。

 だが、背を向けたその瞬間、愛らしい笑みは消え失せ、表情は凍てつくように陰鬱なものへと変わった。

 (あの人の心の中で、秋月雫はそれほどまでに重要な存在だというの?)

 九条時夜と白川ゆらが空港へ向かい、蘇我と緒方ハルを出迎えた後の車内は、和やかな談笑に包まれていた。

 もっとも、話しているのは主に蘇我と緒方ハルで、白川ゆらがそれに相槌を打ち、九条時夜は時折短く応じるだけで、決して愛想が良いとは言えなかった。

 彼は普段...

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