第64章 全部見ていたのか?

秋月雫は顔を上げ、目の前の男を信じられない思いで見つめた。

 高杉蓮はまるで親の仇でも見るかのような目で彼女を睨みつけ、手首を締め上げる指の力を緩めようともしない。

「あなた……」

「俺がなんだ?」

 彼は強く秋月雫を振り払うと、白川ゆらの方へ向き直り、打って変わって慈愛に満ちた表情を見せた。

「ゆらちゃん、大丈夫か? 安心してくれ。彼女が君の髪一本でも傷つけようものなら、俺が許さない」

 不意を突かれた秋月雫は地面に叩きつけられ、膝を強打した。あまりの激痛に、思わず涙がこぼれ落ちる。

 だが、身体の痛みなど、心が引き裂かれる痛みに比べれば何でもなかった。

 十数年も兄のよう...

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