第84章 白川ゆらに命の借りがある

家族、か。

 秋月雫の胸の奥が、ずきりと痛んだ。

 身寄りのない孤児である自分に、家族などという温かいものが存在するはずもない。

 十数年も支え合ってきた「兄」も、三年間連れ添った夫も……。自分が家族だと信じていた彼らは結局、この胸を刺す棘と化してしまったのだから。

 雫はかぶりを振り、自分の境遇を隠そうとはしなかった。

「私は孤児です。家族はいません」

 池井康仪の瞳に憐憫の色が浮かぶ。続く言葉は、先ほどよりもずっと柔らかなものだった。

「立ち入ったことを聞いてすまない。君ほど才能豊かな女性だ、ご両親もさぞ優秀な方だったのだろうと思ってね」

 そうだろうか?

 もし本当に...

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