第百十八章

雪枝は電話に出ると、面倒くさそうに適当な相槌を打ちながら、冷ややかな視線を晴美へ向けた。『後でたっぷり絞ってやる』とでも言いたげな目だ。カツカツとヒールを鳴らして少し離れると、途端に声のトーンを上げ、心にもない軽薄な調子で話し始めた。

「だから、あの子が入院したって言ってもねえ。私、医者じゃないんだから、行ったところで何ができるっていうのよ。予定は変更なし。明日はフランスで髪をセットしてもらうから……」

息子が病気だというのに、母親の立場で髪のセットなどとよく言えたものだ。

だが、それも無理はない。

この家に嫁いで数年になるが、雪枝が二人の子どもの食事の世話をする姿など、ほとんど見た...

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