第1章
火曜日の朝、午前十時きっかり。幸村真尾はリビングの使い古されたソファにだらしなく寝そべり、手にしたリモコンで意味もなくチャンネルを切り替えていた。
ブラインドの隙間から陽の光が差し込み、空のビール瓶やテイクアウトの箱が散乱するコーヒーテーブルの上に、まだらな影を落としている。
また、ろくでもない一日だった。
建設会社を解雇されて以来、彼の生活は決まった繰り返しだった――自然に目が覚めるまで眠り、くだらないテレビ番組を眺め、椿の帰りを待つ。
電話が鳴った。
幸村真尾は発信者表示に目をやった――非通知表示。
『またセールスの電話だろう』
一瞬ためらったが、結局出ることにした。
「もしもし、幸村真尾様でしょうか?」
事務的な響きの、女の声だった。
「ああ、俺だが」
幸村真尾はあくびをしながら言った。
「何か売りつけようってんなら――」
「お客様、わたくしは生命保険会社のカスタマーサポートの者です。年に一度の契約内容の確認を行っておりまして、幸村椿様の名義でご契約いただいております、五百万円の生命保険に関していくつかご確認させていただきたいことがございます」
幸村真尾の手が止まった。
「保険だと?」
「幸村様、記録によりますと、奥様が六ヶ月前に高額の生命保険に加入されており、お客様が受取人として指定されております。年に一度の定例確認のため奥様にご連絡を差し上げているのですが、繋がらない状況が続いておりまして。現在の連絡先をご確認いただくことは可能でしょうか?」
幸村真尾の心臓が速鐘を打ち始めた。
「待て、連絡が取れないだと?」
「お客様」
カスタマーサポートの声に心配の色が混じった。
「ご自宅の住所に何度か通知をお送りし、登録されているお電話番号にもおかけしているのですが。これほど長期間ご契約者様と連絡が取れない場合、社の方針で受取人様に状況を確認することになっております。奥様は……ご在宅でしょうか?」
気まずい沈黙が流れた。
「私どもとしましても、記録を更新する必要がございまして。もし奥様にできるだけ早くこちらへご連絡いただくようお伝えいただくか、あるいは奥様の状況に何か変化がございましたら……」
幸村真尾は電話を切った。その手は激しく震えていた。
五百万円? 椿がいつ保険に? なぜ俺に隠していた? それに、もっと重要なのは、なぜ保険会社は彼女と連絡が取れないんだ?
幸村真尾は書斎に駆け込み、半狂乱でファイルを探し始めた。引き出しを力任せに開けると、きしむ音がした。フォルダから書類が床に散らばる。税金の書類、公共料金の請求書、銀行の明細書――クソッ、椿は大事な書類をどこに隠したんだ?
三段目の引き出しの底で、彼は「保険書類」と書かれたフォルダを見つけた。震える指で、それを開いた。
生命保険会社のロゴが、彼を見つめ返しているかのようだった。契約者:幸村椿。受取人:幸村真尾。保険金額:五百万円。
契約日は昨年の十月十五日。
『十月十五日……七回目の結婚記念日の、次の日じゃないか』
さらに探し続けると、もっと衝撃的な書類が見つかった。住宅ローンの契約書――家は三百万を借り入れるために抵当に入っていた。銀行の融資記録によれば、椿は去年の九月に個人ローンを申請していた。
「どうしてこんなことを?」
彼は誰もいない部屋に向かって呟いた。
「なぜ、俺に隠して……?」
彼は椿の銀行明細書を手に取り、注意深く調べた。六ヶ月前――彼女が家を出た頃――多額の現金引き出しがあった。口座はほとんど空にされていた。
これらの兆候が指し示す可能性を、彼は認めたくなかった。
玄関のチャイムが鳴った。幸村真尾は重い足取りでドアを開けると、柳崎千早が花束と、いい香りのするパンケーキらしきものを手に立っていた。
「真尾さん」
彼女は甘く微笑んだ。
「椿さん、まだ帰ってきてないって聞いたから。誰か話し相手が必要なんじゃないかと思って」
柳崎千早は隣人で、この町で最も成功している保険のセールスウーマンでもあった。彼女はいつも完璧な身なりをしており、今日はベージュのスーツを着ていた。完璧なメイクは、彼女を実年齢よりも若く見せていた。
「千早さん」
彼は彼女を見つめ、ふとある考えが頭をよぎった。
「椿が五百万円の保険に入ったこと、知ってたのか?」
彼女の表情は驚きに変わったが、その驚きがどこか……作られたもののように感じられた。
「あらまあ、本当に買ったの? 家族を守るために考えてみたらって、軽く提案しただけなのに……」
「提案?」
「ええ」
柳崎千早はリビングに入り、花とパンケーキを置いた。
「数ヶ月前におしゃべりしてた時、彼女、あなたの失業のことを話してくれて。もし自分に何かあったら、あなたがどうなるか心配だって言ってたの。だから、最近は多くの主婦が万が一のために生命保険に入るものよ、って言っただけ」
彼女はソファに腰を下ろし、隣のスペースを軽く叩いて、彼に座るよう促した。
「でも正直に言うと、椿さん、最近は感情が不安定だったわ。あなたの重荷になっている気がするって、ずっと言ってた。あなたが仕事を失ってからの経済的なプレッシャーを心配してたのよ」
彼は彼女の隣に座り、深い罪悪感に襲われた。
「彼女がそんなにプレッシャーを感じていたなんて、気づかなかった……」
「わかるでしょう」
柳崎千早は彼の甲を優しく撫でた。
「女って時々、責任を背負い込みすぎるものなの。椿さんはあなたのことをとても愛してる――この保険を買ったことが、彼女があなたの将来をどれだけ大切に思っているかの証拠よ」
彼女の感触は、心地よくもあり、居心地悪くもあった。ここ数ヶ月、柳崎千早は頻繁に彼の様子を見に来て、食べ物を届け、話し相手になってくれた。それが正しいことではないと分かっていた――自分は既婚者だ。しかし、椿はいないし、柳崎千早は……彼を理解してくれた。
「たぶん、頭を冷やす時間が必要なだけよ」
柳崎千早は優しく言った。
「この保険が、あなたのために何かをしてあげられた、って気持ちにさせて、彼女の罪悪感を少し和らげているのかもしれないわ」
彼は頷き、彼女の言葉を信じたいと思った。しかし、保険会社からのあの電話が、心の片隅で恐怖を煽っていた。
「彼女を探しに行かないと」
彼は言った。
「もちろんよ」
柳崎千早は立ち上がり、スーツのしわを伸ばした。
「何か手伝えることがあったら、いつでも電話して。真尾さん、気を付けてね」
彼女は彼の頬に軽くキスをし、香水の香りを残して去っていった。
彼はコーヒーテーブルの上のパンケーキに目をやったが、食欲はまったくなかった。椿は、あんな高額な保険に入るような人間じゃなかった。
『なぜ彼女は突然、五十万ドルもの保険を買ったんだ?』
『本当にただ頭を冷やしに出かけただけなのか?』
『なぜ六ヶ月もの間、誰にも連絡してこないんだ?』
