第8章
翌日の午後二時、私は桜原フィットネスの前に立っていた。手汗が半端じゃない。
扉を押し開ける。
汗とゴムの匂いが立ち込めていた。至るところにサンドバッグが吊り下げられ、床には黒いマットが敷き詰められ、隅にはトレーニング器具が山積みになっている。スキンヘッドの筋骨隆々な男が若い男を指導していて、パンチが打ち込まれるたびにヘビーバッグが激しく揺れていた。
「何か用か?」背後から、野太い声が飛んできた。
「美咲です。昨日お電話しました」
「ああ、喧嘩を習いたいって言ってた女か」誠は心底疑っているような目で、私を値踏みするように見た。「見たところ事務職って感じだが、本気か?」
「本気...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
8. 第8章
9. 第9章
10. 第10章
縮小
拡大
