チャプター 3
ニューヨークの街を車で走りながら、ジュヌヴィエーヴは窓の外を眺めていた。煌々とした光が空を照らし、彼女はため息をつく。自分が育った頃に見た、星のきらめく夜が恋しかった。ニューヨークが好きになったことは一度もなかった。十代の頃、父親にここに越すと言われたとき、彼は壮大な冒険になると約束した。だが実際は、息が詰まるようだった。大学を卒業するとすぐに、彼女はこの街を出た。ボストンの方がずっと性に合っていた。育った街よりははるかに大きいが、どの角を曲がっても歴史の面影があり、道を渡るのが遅いからといって唾を吐きかけてくるような人もいない。
彼女は車を運転している男をちらりと盗み見た。マッテオは彼女の存在など忘れてしまったかのようだ。彼ははるか遠くを見つめ、ハンドルを握る指の関節が白くなっていた。
「拳、血が出てるわ」とジェンは指摘した。ハンドルを握る彼のこわばった力が緩む。彼は興味なさそうにちらりとそこに目を落とし、すぐに視線を道路に戻した。
「すぐに止まる」
彼女はもうしばらく彼を見つめた。拳から血を流していても平気でいるなんて、一体どんな男なのだろう? しょっちゅうそんな怪我をしている男なのだろう、とジェンは推測した。彼女は震えを抑え、腕を組んだ。再び窓の外に目をやると、セントラルパークに近い美しい住宅街に入っていくのが見えた。
マッテオは車を歩道に寄せ、一言もなく降りた。ジェンもそれに続き、彼が向かっていく白いブラウンストーンの建物を感心して見上げた。彼がいくつもの鍵を使って三つの錠を開け、コードを入力し、指紋スキャナーでドアを開けるのを彼女は見ていた。
「なんてこと……あんた、一体何者なのよ?」ジェンは尋ねた。
マッテオは肩越しに危険な笑みを浮かべてちらりと彼女を見ると、ドアを完全に押し開けて中に足を踏み入れた。古いブラウンストーンで、床は建築当時のまま、壁は深い緑や青、そして白で塗られている。玄関から見える部屋には、時代考証の行き届いたアンティーク家具が点在していた。彼女が呆然と見とれていると、マッテオはコートを脱いだ。
「よろしいですか?」その声は柔らかく、彼の手が彼女のコートの袖をかすめると、吐息が首筋にかかった。
ジェンは頷くことしかできなかった。胃の中にゆっくりとでき始めていた塊が、大きく膨らんで沈んでいくのを感じた。彼が襟をつかんでコートを肩から引き抜くとき、その指先が彼女の鎖骨をかすめた。彼が彼女のコートとハンドバッグを受け取り、ドアのそばにあるクローゼットにしまうのを彼女は見つめた。彼はクローゼットのドアに背をもたせかける。その目は、彼女の全身をなめるように見つめながら、爛々と輝いていた。
「考え直したくなったか?」
「いいえ」ジェンはあまりにも早く答えすぎた。彼は片眉を上げる。彼女は腕を組み、勇気を出すために息を吸った。「ただ……こういうの、初めてだから」
彼はドアから身を離し、ゆっくりと彼女に向かって歩いてきた。彼女は後ずさりせずにその場に踏みとどまろうと必死だった。彼は両手をポケットに突っ込んだ。「俺もだ。さあ、来い」
彼が階段を上り始めるのを見て、突然、自分たちの状況の現実が彼女にのしかかってきた。全くの見ず知らずの男と、一夜限りの関係を持とうとしている。こんな大胆なことをしたことは一度もなかった。本当にこのまま進むつもりなのだろうか? 彼が目の前からいなくなると、彼女の頭の歯車が再び回り始めた。帰らなきゃ。外の空気を吸わなきゃ。私は……
階段の最上段に、靴下履きの足が現れた。マッテオは両手をポケットに入れたまま階段を下りてくる。黒のスーツの上着とベストを脱ぎ、ネクタイとカフスボタンも外していた。白いシャツはズボンから出され、腰の下まで垂れている。彼は彼女の前に立つと、深くため息をついた。
「君は、何でもないことでパニックになっている」苛立ちの欠片もない、穏やかな声だった。
ジェンが思い切って彼の視線を受け止めると、すぐに自分の過ちに気づいた。彼の目は、深い悲しみからくるような疲労に満ちていた。「どうしたらいいか、よくわからないの」彼女は認めた。
彼の視線が、ゆっくりと彼女の顔立ちをなぞった。その夜初めて、彼の唇にかすかな笑みが浮かぶのを彼女は目にした。
「君に指一本触れさせない。ただ、上の階に来てくれ……もし、君が望むなら。そうでなければ、ドアは内側から簡単に開けられる。そのときは俺に通知が届くから、君が決断したってことがわかる」マッテオは言った。彼は彼女に背を向け、階段を上っていった。
ジェンは玄関ホールを行ったり来たりした。どうすべきか悩みながら歩くと、ヒールが木の床をカツカツと鳴らした。やがて彼女はうめき声を漏らした。もう、どうでもいいわ。考えが変わる前に、ジェンは階段を上り始めた。廊下の突き当り近くから漏れる、柔らかな光を目指して進んだ。彼の寝室であろう部屋の戸口で、彼女は立ち止まった。奥の壁際には大きな四柱式のベッドが置かれている。他の壁には風景画が飾られ、窓の外には彼が車を停めた表通りが見えた。
マッテオがバスルームからスラックスだけを穿いた姿で現れ、ジェンはその光景に息を呑んだ。彼の腹筋は、まさに彫刻のように鍛え上げられていた。あれほどの肉体美を手に入れるために、ジムでどれほどの時間を費やしたのだろうと彼女は想像した。彼女の視線は、彼の腕の曲線から、胸板のシャープな角度、腹筋、そしてウエストバンドの下へと消えていく薄い体毛のラインをたどった。それから視線を上に戻すと、左胸、心臓の上あたりに彫られた一族の紋章のタトゥーに行き着いた。
「決心はついたか?」彼はポケットに両手を滑り込ませながら尋ねた。
ジェンの視線が、はっと彼の顔に戻る。そこに宿る熱に、彼女はごくりと喉を鳴らした。彼は彼女に残ってほしいのだ。今にも自分が立ち去ってしまうのではないかという恐れが、彼の瞳に見て取れた。
「……残るわ」彼女は言った。
「バスルームに着替えを置いておいた。シャワーを浴びてもいいし、メイクを落としてもいい。好きにしてくれ」マッテオは提案した。
彼女はバスルームのドアに目をやり、それからベッドサイドテーブルへ歩いていく彼を見た。彼はスマートフォンを手に取ると、何かを打ち込み始めた。シャワーを浴びろって? メイクを落とせって? ワンナイトスタンドの男女って、お互いの服を剝ぎ取り合うものじゃないの? 酔った勢いでセックスして、家具を壊したり。朝早くに目覚めて、慌てて逃げ出すか、枕にこすりつけたメイクを直したりするものでしょう?
ジェンは彼を見つめ続けたが、彼はただベッドに腰を下ろし、スマートフォンをタップし続けているだけだった。彼女はその誘いに乗ることに決め、バスルームに駆け込んだ。中に入るとドアを閉めて鍵をかけた。大理石のバスルームを見回す。レインシャワーと大きな化粧台の鏡に感心し、彼女は眉を上げた。彼が用意してくれたフーディーとボクサーブリーフを、指でそっとなぞる。顔がカッと熱くなった。彼のボクサーパンツを穿けってこと?
彼女はボクサーパンツの上にフーディーを重ねて置き、頭を振って雑念を払った。髪を頭の上で無造作にまとめてお団子にする。見つけたローションをトイレットペーパーにつけ、大まかにメイクを落としてから、シャワーの熱いお湯を浴びた。お湯が神経を落ち着かせてくれ、同時に、自分が状況をコントロールできているという感覚を取り戻させてくれた。
体を乾かすと、彼女は彼が用意してくれた服を見下ろした。ブラジャーは自分のものを着け直し、その上から彼のフーディーを羽織ることにした。フーディーの内襟の匂いを嗅ぐと、彼女はうっとりと目を閉じた。明らかに彼が最近着ていたものだ。タバコと蜂蜜のむせ返るような香りが染みついていた。フーディーは股下まですっぽり隠れる長さだったので、彼の〝モノ〟を文字通り包んでいたものを履くという考えと向き合うよりは、自分の下着をそのまま履く方がましだろうと判断した。
最後に一度鏡を見る。髪をふわりと整え、頷いた。寝室に戻ると、マッテオはヘッドボードに背を預けて座っており、腰から下はブランケットで覆われていた。彼の視線がさっと上がり、彼女の全身をなめるように見下ろした。彼は彼女から目を離さないまま、そばのテーブルにスマートフォンを置いた。
「もう寝るかい?」彼の声は低く、夢へと誘うようだった。
