チャプター 38

セオドア視点

黒の蝶ネクタイを直すのは、これで三度目だった。ムーンシャドウ・パック邸の二階にある展望デッキ。床から天井まである窓に映る自分の姿を、俺はちらりと見た。

『くそっ、今夜の俺、イケてるな』

オーダーメイドの黒いタキシードは、世界中にいる五億人のファンが画面越しに目にする姿――雑誌の表紙を飾り、酸いも甘いも噛み分けた大人の女性でさえ我を忘れてしまうほどの顔立ち――を完璧に引き立てていた。長身で、逞しく、それでいて気負いのない優雅さをまとい、『エンターテインメント・ウィークリー』誌に「破滅的なほどに人を惹きつける」と評された、あの瞳。

だが今、その壮麗な瞳は、俺の親友に向けて不機...

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