チャプター 5
エレナ視点
リチャードの視線が肌を焼くように突き刺さるのを感じたが、私は決して彼と目を合わせようとはしなかった。心臓は胸の中で激しく脈打っていたが、表情は平静を装った。
「モリス校長、ブラックウッド様がウィンター先生と二人きりで話したいと。我々は外に出ましょう」リチャードの補佐であるイーサンが言った。
イーサンはパックのベータであり、リチャードの右腕だ。妊娠中、リチャードの動向を逐一報告してくれたのは彼だった。そのことには感謝している。
ドアが閉まると、私は言った。「何かの勘違いだと思います。あなたのことは存じ上げません」
「エレナ」彼の声は、かろうじて抑えられた怒りに満ち、まるで物理的な一撃のように私を打ちのめした。
「人違いです。授業の準備があるので」そう言って、私はその場を去ろうと背を向けた。
一瞬で、彼は私の背後にいた。手首を掴まれ、ぐいっと引き寄せられると、乱暴にドアに押し付けられた。その衝撃で、木製のドアフレームが軋んだ。
リチャードの顔が目と鼻の先にあり、その瞳が茶色から金色へと変わっていく。彼の手が、私の喉を掴んだ。
「エレナ・ウィンター」彼は唸った。「俺を試しているのか?」
私は臆することなく彼の視線を受け止めた。喉を締め上げる力は強まったが、私は抵抗しなかった。「六年よ。丸々六年間、あなたは生きていた。私とかくれんぼでもしていたつもり?」
「今日、もう一度私を殺すか……それともいつか……あなた自身が私の手にかかって死ぬかよ」喉を締め付けられているにもかかわらず、氷のように冷たい声で私は囁いた。
イーサンが駆け込んできた。「アルファ! おやめください! 彼女はパックのルナ――あなたのメイトです!」
リチャードの手から力が抜け、その瞳に相反する感情が揺らめいた。
私はドアに沿ってずるずると滑り落ち、胸を押さえて深く息を吸い込んだ。
「出ていけ」彼はイーサンに言った。「今すぐだ」
彼は一瞬ためらったが、やがて部屋を出て、後ろ手にドアを閉めた。
リチャードは椅子に座り直した。「六年前、何があったのか話すチャンスを一度だけやる。真実を話せ」
私は虚ろに笑った。「真実? あなたは私が陣痛に苦しんでいる最中に、愛人を連れて帰ってきた。それが私たちの結婚があなたにとって何を意味していたか、その全てを物語っているわ」
「あなたは誰を愛そうと自由だと主張する。でも私は? あなたの子供を産んで死にかけたのに、私には生きる権利すらなかったっていうの?」私は続けた。
彼の顎が引き締まり、その瞳は怒りに満ちているかのように私に注がれていた。だが、彼は一言も発しなかった。
「それに、私の偽りの死は、あなたの偉大なラブストーリーにとって好都合だったんじゃない? ヴィクトリアと結婚したいってずっと言ってたものね。私が未亡人になったおかげで、彼女と結婚しやすくなったでしょう?」私は再び彼を挑発した。
昔の私なら、彼の前では従順で、いつも彼の要求を第一に考えていただろう。でも、もう私はあの頃の私じゃない。今、彼に対して感じるのは、苦々しさとか侮蔑だけだ。
「こいつをここから連れ出してロッジへ戻せ。今すぐだ」リチャードの声は氷のように冷たかった。
黒いスーツの男が二人、私の側に現れた。一人が私の肘を掴み、動きを封じる。
「離して」私は歯ぎしりするように言った。「あなたにそんな権利はないわ」
「法的には、お前はまだ俺の妻だ」リチャードは答えた。「お前の死亡証明書は、今日中に取り消される」
廊下を連行されながら、私は誰に見られようと構わずに暴れた。「これは誘拐よ!」
「これは家族の問題だ」彼は冷静に返した。
私は待機していた黒い車まで、半分引きずられ、半分歩かされるようにして連れて行かれた。そして中に押し込まれる。
彼が隣の席に滑り込んできたとき、私は吐き捨てるように言った。「どこへ連れて行くつもり? 気は確かなの? 私がいないことを望んでいたのはあなたの方でしょう。それなのに、どうして今さら私を連れ戻すの?」
彼は答えず、ただ顎を食いしばって前方を真っ直ぐに見つめるだけだった。
やがて私はホテルに連れてこられた。私たちはロビーを抜け、キーカードが必要な専用エレベーターに乗り込んだ。
「一人で歩けるわ」エレベーターのドアが閉まるのと同時に、私は警備員の手を振り払い、吐き捨てるように言った。
エレベーターが開くと、私たちは広大なペントハウススイートに足を踏み入れた。床から天井までの窓からは山々が一望できたが、私にその景色を堪能する気分はなかった。私の注意を引いたのは、部屋の中央に立つ小さな人影だった。
キャシー。
心臓が止まった。娘にまた会えた――触れられるほど近くにいる。
「遅いわ」彼女はリチャードに言った。「三十八分も遅刻よ。読書の時間は中止」
その態度は、彼にそっくりだった。同じ横柄な口調、同じようにすっと上げた顎。
リチャードの表情が、ここ何年も見たことがないほど和らいだ。「ごめんよ、ベイビー。急な会議が入ってしまったんだ」
彼女の視線が私に向けられた。「どうして学校の先生をここに連れてきたの?」
リチャードは、ほんの一瞬だけためらった。「古い友人だ」
古い友人? 私は舌を強く噛み締め、口の中に血の味が広がった。
リチャードはイーサンに頷いた。「キャシーを夕食に連れて行ってくれ」
「かしこまりました」
イーサンがキャシーを連れて行くとき、彼女の細く小さな手首がちらりと見えた。彼女は壊れそうに見えた。胸が痛む。病気なのだろうか? 彼はちゃんと面倒を見てくれたのだろうか?
二人きりになると、リチャードが私の方を向いた。
「古い友人?」彼が口を開く前に私は言った。「今の私にとって、私はそういう存在なの、リチャード?」
「では何と伝えればよかった? お前は彼女を捨てた母親だとでも?」
「捨ててなんかない!」
「お前は彼女を置いていった」彼は平坦な声で言った。「彼女を置いて、六年間も死んだふりをしていた」
「彼女に会わせて」私は要求した。「あの子は私の娘よ」
リチャードの笑い声は冷たかった。「お前の娘? いいや、エレナ。お前が去った日、彼女はお前の娘であることをやめた。彼女の母親は死んだんだ――一族の墓地には、今でもお前の名前が刻まれた墓石がある」
彼の言葉に、私は一言も反論できなかった。
そう、娘にとって私は死んだ人間だ。もし今、私が彼女の前に現れたら、どう説明すればいい? 本当は死んでいなかった、ただ当時はあなたがいらなかっただけ、とでも言うのだろうか?
私は唇を強く噛み締めた。
彼は私のためらいを見て、嘲りを深めた。「思い出したか? それでも俺に、お前が彼女のママだと伝えさせたいか?」
私の手は、よりきつく握りしめられた。
「何が望みなの?」私は感情を抑えながら尋ねた。
「分からないか? エレナ、お前が死んだふりをしてから五年、お前は忽然と姿を消した。どれだけの人間が心を痛めたか知っているか? お前を気にかけていた者たちのことを忘れたのか、お前の『死』によって彼らがどんな目に遭ったかを?」
彼の言葉は、大槌のように私の心を打ちのめした。
忘れられるはずがない。
彼のご両親は、私に本当に良くしてくれた、とても良く。彼が私を好かず、私たちの結婚を認めなくても、ご両親は私を娘のように愛してくれた。
それに、メイソンとシンダの一家もいた。他の群れとの戦いの後、私の父と母が重傷で相次いで亡くなったとき、メイソンが群れを引き継ぎ、彼らはいつも私の面倒を見てくれた。
だが後になって、私は彼らに死んだふりという形で報いたのだ。
「全部あなたのせいよ!」私は怒りにまかせて言った。
「全ての責任を俺に押し付けるな。そもそもお前がこの結婚に同意しなければ、こんなことにはならなかった。誰もお前に俺と結婚しろと強制はしていない!」
「そうよ、誰も強制なんかしなかった。私が馬鹿だったのよ、あなたと結婚するなんて、あなたみたいなクソ野郎と。これで満足? 私の人生は台無しになったわ、満足した? 出ていって!」
私は自制心を失い、近くにあった何かを掴んでそのろくでなしに力いっぱい投げつけ、そしてついに、涙が溢れ出した。
彼は一瞬、固まった。
私がこれほど突然に理性を失うとは思っていなかったのだろう。
「好むと好まざるとにかかわらず、お前を連れ戻す」
そう言うと、彼は踵を返し、スイートから出て行った。見張りとして男を二人残して。
