メリットのある蚊

セイン

「俺たちのオメガ」の部屋を出ることは、これまで経験したことのないほどの苦痛を伴うものだった。いや、俺たちのオメガではない。アイラだ。あの小さな狼のオメガだ。彼女の髪を耳にかけるべきではなかった。そのせいでロナンが激しく衝動を突き上げ、精神的な障壁に体当たりし、変身して彼女の部屋へ駆け戻ろうとしているのだ。腕を見下ろすと、皮膚の下で毛並みが波打ち、爪が長く鋭く伸び始めている。何も聞こえない。聞こえるのはロナンの唸り声だけだ。

『オメガを守れ、見張れ、戻れ』

俺はとっさに壁を掴み、変身しようとする力に抗った。もし今走り出してしまえば、あいつは真っ直ぐここへ戻ってきてしまうだろう。彼女...

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