10 年

セイン

十年だ。他の連中のように数ヶ月じゃない。十年。忌々しいことに十年もの間、彼女はあの悍ましい化け物どもに囚われていた。十年もの間、シフターどもに虐待されながら、檻に閉じ込められていたんだ。『守れ。奴らを皆殺しにしろ』ローナンが俺の心に大声で唸り、障壁を突き破ろうと、無理やりシフトさせようとしてくる。この部屋を離れるのは嫌だが、こいつを抑えつけなければ、彼女の前で無理やりシフトしかねない。そうなれば、俺たちがようやく手にしたわずかな進展も水の泡だ。

『彼女のために、奴ら全員に報いを受けさせてやる。もうすぐだ、ローナン』アイラ。その名だけでも美しいが、彼女の真の美しさには到底及ばない。綺麗になった彼女の姿は、俺の全身に衝撃を走らせた。殴られ、血まみれになっていない時の彼女は、息をのむほど美しい。彼女のゴージャスな青緑色の瞳は、俺の心に刻み込まれている。真っ白な髪に指を滑らせたいという衝動が、瞬時に湧き上がった。この感情はどこから来るんだ? 確かに彼女は魅力的だ。いや、それ以上の言葉が必要なくらいに。だが、彼女に対するこの引力の強さには我ながら驚かされる。彼女は俺のメイトではない。俺は二十八歳で、選ばれた相手を迎えるのではなく、まだ自分のメイトを見つける時間がある。両親のような、真のメイトの絆が欲しいのだ。互いを飲み込むほどの愛と尊敬。そして、もし彼女がオメガなら、なお良い。

パックハウスへ戻る道中、俺は怒りに満ちていた。あんな状況下で、どうしてあれほど長く生き延びられるんだ。アイラが今も呼吸していること自体、その強さは計り知れない。彼女自身はおそらく気づいてもいないだろうが。正面玄関の階段を上っていると、デラにばったり出くわした。今は彼女に構っている気分じゃないが、できるだけ礼儀正しく、短い微笑みと挨拶を交わして、この場をやり過ごそうと努める。デラのことが嫌いなわけではない。デートもしたことがあるし、一緒にいて楽しい相手だ。いわゆる都合のいい関係、とでも言うべきか。だが彼女は、俺が特定の関係を結ぶつもりがないと知っていながら、それでもなお迫ってくる。本当ならきっぱりと関係を断つべきなのだろう。だが俺にも欲求はあるし、彼女は魅力的で、俺がメイトを待っていると知りながら、機会さえあれば誘惑してくる。どちらか、あるいは両方が真のメイトを見つけた時に、感情が絡んだ関係を終わらせなければならないなんて、お互いにとってフェアじゃない。俺は待つ時間があると感じているが、彼女はそうではないようだ。

「ねえセイン、どこにいたの? オフィスに行ったけどいなかったわ。ランチデートでもどうかなって思って。電話もメッセージもしたのに、返事がないから」

「ああ、すまない。まだ携帯をチェックしてなくてな。俺はエリックと診療所にいて、救出した雌狼の状況について報告を受けていたんだ」

「そのためにわざわざそこまで行く必要があったの? 彼女がどうだったか、彼に聞けばよかったじゃない」

「いや、俺が行きたかったんだ。それに、行ってよかった。彼女を起こすことができたし、名前もわかった。十年前に行方不明になったこともな。可哀想なオメガは、自分の年齢さえ知らなかった。聞いているのが辛かったよ。いや、読んでいて、か。彼女は口がきけないんだ」

「彼女、オメガなの? 知らなかったわ」

「そうだが、俺たちの会話で君が驚くのはそこじゃないと思っていたんだがな」

「ええ、そうね、その通りだわ。もちろんよ。ただ驚いただけ。十年もなんて長いし、話せないなんて信じられないわ」

「話せないのか、ただ話さないことを選んでいるのかはわからない。エリックは、彼女のトラウマを考えると、自らの選択である可能性が高いと考えている。後でまた彼女と話しに行くつもりだが、まずはこのフラストレーションをどうにかしないと。俺の狼がかなり苛立っている」

「それ、私が手伝ってあげようか? 何かテイクアウトして。あなたは話して、私が背中をマッサージしてあげて、それからどうなるかはお楽しみ、なんてどう?」

「いや、何かを殴りたい気分なんだ。サイラスに連絡して、スパーリングか訓練場に行かないか聞いてみる。また後でな」そう言って、俺は足早に建物の中へ入った。俺が伝えた情報から彼女が汲み取ったのが、アイラがオメガであるという事実だけだったことに、俺は呆然としていた。一体、彼女がそれを気にしてどうするんだ?

『サイラス、ジムか訓練場に行かないか? ローナンが殺戮の衝動に駆られるのを止めないといけない』俺はマインドリンクで伝えた。普段は狼の姿の時しかマインドリンクは使わないが、内輪の仲間と連絡を取るにはこの方が手っ取り早い。

「まあ、客人の相手をして汚れたんで、綺麗にしてたとこだ。かなり散らかしちまってな。もちろん、奴はまだ口を割らん。名前はない、と言い張ってる。訓練場でならお会いしてもいいですよ、陛下。あんたをぶちのめして、もう一度シャワーを浴びる口実が欲しいからな。一体、何がそんなにご機ip斜めなんだ?」

「今日はお前のくだらねえ戯言に付き合ってる気分じゃねえんだよ、サイラス。理由はてめえをぶちのめしながら説明してやる。15分で来い」

俺は狼へと姿を変える。ローナンは体高およそ6フィート、金の瞳を持ち、毛皮は真夜中のような漆黒だ。サイラスはすでに彼の狼、アルテミスにシフトしている。その毛皮は黒を基調に灰色のハイライトが混じり、赤い瞳は血への渇望を映していた。ローナンよりは小さいが、大差はない。俺たちは互いの周りを旋回し始め、弱点を探り合い、最初の一撃を待つ。飛びかかって互いを完膚なきまでに叩きのめす前の、俺たちのいつもの儀式だ。どちらかが勝利することはない。これは俺たちの内なる狼の攻撃性を発散させるためのものだが、俺の方が奴より強いことは互いに承知している。俺の武器が戦闘技術なら、奴の武器は狂気だ。先に仕掛けてきたのは奴だった。俺の脇腹を爪で引き裂こうとするが、ローナンの方が素早い。身を翻し、アルテミスの顔面に牙を剥き出しにして威嚇する。

「それで、何がそんなにお前を苛立たせてるのか、話してくれるんだろうな? 昼間にお前が訓練することなんてまずない。俺がお前の血を地面にぶちまけてやるとき、見てる子狼どもにトラウマを植え付けちまうかもな」

「アイラのせいだ。いや、彼女が俺に告げたことのせいだな」正直に言えば、その両方だったが。「彼女が俺を苛立たせてる」

「で、そのアイラってのは誰だ?」

「アイラ・フロストは俺たちが救出した雌狼だ。今日、目が覚めた。エリックによると、彼女の血はウルフズベーンで満たされていたらしい。それに、話せないのか話さないのか……だが、自分が誘拐されたのは10年も前だと書き記したんだ。10年だぞ、クソが!」奴が俺に飛びかかってきた瞬間、俺はその下を素早く潜り抜け、奴の両脚の間から前方へ躍り出る。返す刀で奴の背中を爪で引き裂いた。奴は手加減している。ローナンの攻撃性が発散されるなら、それでいい。

「10年? おいおい、そりゃ最悪だな。マジかよ。なんでそんなに長く? 何かの名前を知ってるとかか?」

「ローナンが殺戮衝動に駆られる前にわかったのは、彼女の名前と、どれだけ長く囚われていたかだけだ。あいつは彼女を絶対に守らなきゃならんと頑として譲らない。そのことで俺にかなりプレッシャーをかけてきてる。危うく彼女の前でシフトしかけたほどだ」俺たちは再び互いを旋回しながら、そう説明した。

「へえ。あいつがお前にプレッシャーをかけてるのか、それとも彼女にお前を『乗りこなして』ほしいのか? 彼女のことでそんなに興奮してるってんなら、後者みてえに聞こえるがな」

「黙れ。真面目な話だ。なんであいつがそこまでいきり立ってるのかわからん。彼女がオメガだから、群れを、特にオメガを守ろうとする本能が働いてるってんなら話は別だが。だいたい、俺は彼女がどこの出身で、家族が誰なのかさえ知らないんだ。きっと家族も彼女を探してるだろうし、家に帰したがってるところだろう。どんな形であれ、彼女に近づくのは得策じゃない。10年は長すぎる。彼女はこのことから立ち直れないかもしれん」その考えがローナンを激昂させ、奴はアルテミスにタックルして地面に組み伏せると、牙と牙で応酬し始めた。

「お前の言うことはすべて尤もだ。あいつがそこまで庇護的なのは、彼女がオメガだからだと思うか? それとも、彼女がお前の……みたいに誘拐されたオメガだから、そこまで庇護的になってると思うか?」

「その続きを言ってみろ。てめえのキンタマを容赦なく引きちぎってやる。ああ、その可能性も考えた。きっとその両方が混ざってるんだろうな」

「わかったよ。頼むからアルテミスのタマからその足をどけてくれ。どのみち彼女は家に帰らなきゃならん。もし彼女がここに残って、お前が本気になったら、デラが彼女の喉を掻き切るぞ」

「本気になるもんか。彼女は俺の番じゃないんだからな。それに、仮に俺たちが何らかの形で関係を持ったとしても、デラは彼女に何もしない。俺たちはただの友達だって、あいつもわかってる」奴が飛びかかってきて俺の首筋を掴んだ。ローナンは振り返り、奴の背中に噛みついた。

「はいはい、そうやって自分に言い聞かせてろ。デラはマジでイカれてるぜ、セイン。俺が言うんだから間違いない。イカれた奴のことは、イカれた奴が一番よくわかるんだよ。あいつはイカれてる。お前に執着するあまり、お前の爪の切りくずでも袋に詰めて枕の下に隠してるに違いねえ」

「あいつは執着なんかしてないし、イカれてもない。ただ粘り強いだけだ。待て……爪?」俺たちは一時間にわたって攻撃し合い、吠え合っていたが、そのときエリックからマインドリンクが入った。

「セイン、診療所に戻ってきてくれ……アイラが見当たらない」

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