第105章

「藤原様……」

アンナはそう呼びかけると、すぐさま後を追いかけた。「どうして待っててくれないんですか? 一緒に飲む約束だったじゃないですか。私が付き合ってあげますよ?」

藤原光弘はぴたりと足を止めたが、意外にも拒絶はしなかった。「行くぞ。酒に付き合え」

アンナはぱっと顔を輝かせ、彼の腕に絡みついて門を出て行った。

その一部始終が、秋山棠花の目に焼き付いていた。

藤原光弘は、やはりあの女を連れて行ったのだ。

室内では、皆が呆気にとられていた。

藤原光弘は、逃げ出したということか?

それもそうだろう。堂々たる藤原家の跡継ぎが、元妻に衆目の面前で拒絶され、その上キス...

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