第317章

 その時、ちょうど藤原光弘も彼女に視線を向けた。

 視線が絡み合う。彼の漆黒の瞳が、逃がさないと言わんばかりに彼女を捉えた。その瞬間、秋山棠花は錯覚した。彼の世界には自分しか存在しないのではないか、と。

 だが次の瞬間、彼女は自嘲気味に唇の端を吊り上げた。そんなわけがない。

 藤原光弘が愛しているのは、決して私ではないのだから。

 今の彼の振る舞いも、その優しさも、細やかな気遣いも、すべては「子供」のためだ。祖父の手前、仕方なく付き合っているに過ぎない。

 一番の間違いは、その優しさを自分へのものだと勘違いしてしまうことだ。

「もう帰るのか? 送っていく」

 藤原光弘が大股で歩...

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