第533章

 藤原光弘がその存在に気づいたとき、田中金美はすでに十分近くも社長室に立ち尽くしていた。

 まるで、言葉を発する勇気さえ失ったかのように深くうつむいている。

 藤原光弘は眉間の皺を寄せ、手元の仕事を止めると単刀直入に問いただした。

「田中、そこで何をしている?」

 藤原颯によって会社を追い出されたあの日、彼は自分の足元に潜んでいた内通者の存在に気づいた。

 それは、もっとも警戒を怠っていた人物だった。

 入社して五年、古株とも呼べる彼女が、まさか藤原颯に高値で買収されていたとは誰が想像できただろうか。

 だが今日、田中金美と藤原颯のやり取りを目の当たりにして、ようやく腑に落ちた...

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