第582章

「ええ、わかっているわ」

藤原光弘の言葉に、秋山棠花はこくりと頷き、安堵して彼の腕の中に身を委ねた。

だが、光弘の死角となったその瞳の奥で、一瞬だけ冷たい暗光が煌めいた。

エイドリ家の人間は常に慎重を期し、外部に一切の証拠や弱みを残さない。そのことには、秋山柔子が水原春と名乗って彼女のそばに現れた時点で、とうに気づいていた。

ましてや一族の権力者であるヤールが、自らを危険に晒すような真似をするはずがない。たとえ彼の身柄を押さえたところで、立件の決め手となる証拠など引き出せるわけがないのだ。

彼自身が、異国の警察に対して自らの弱点を口にするなどあり得ない話である。

だからこそ、本当...

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