第629章

 秋山棠花が歩み出ると、少し離れた場所で静かに待つ藤原光弘の姿があった。

 彼女が泣いているのを見たせいだろうか、光弘の表情が一変した。

 足早に彼女に駆け寄ると、その体を腕の中に抱きしめた。たまらなく愛おしそうに。

「馬鹿だな、何を泣いているんだ。身重の体で、お祖父様の前で泣いたりしたら、心配されるだろうに……」

 棠花は、先ほど立ち去る際に吹き抜けた風を思い出した。

 お祖父様が名残惜しんでいるのだと思っていたが、あれは心配してくれていたのだ……。

「ほら、もう悲しまないで。医者も、妊娠後期の今は特に気をつけろと言っていただろう。言うことを聞いてくれ」

 棠花は光弘の胸に顔...

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