第2章
ケナ・ヘイズの視点
「ほら、そこのカップル! キスして! 恥ずかしがらないで!」
「キス! キス! キス!」
でも、二人はキスをしなかった。メイソンはまるで幽霊でも見たかのような顔をしていた。それどころか、手でカメラを遮り、隣の女の子を突き放そうとさえしている。女の子は困惑した表情。メイソンは罪悪感で死にそうな顔。何もかもがおかしかった。
歓声は戸惑いの声に変わり、人々は囁き始めた。
「待って、なんであんなにパニクってんの? 怪しくない?」隣の女の子が言った。
「これ録画しとこ。絶対なんか変だよ」後ろの誰かが言った。
私のスマートフォンは録画を続けていた。ひどく震える手で落としそうになりながらも、私は撮影を続けた。あれは彼だ。間違いなく、彼だ。
三時間も離れた場所での、家族との食事会。
その嘘が、私の胸をまっすぐに焼き貫いた。
「うそ……うそうそうそ……あれはメイソン……」自分の囁きが聞こえた。
カメラは別の人を映したけれど、もう何も聞こえなかった。音楽も、群衆の声も、何もかもがただのノイズに変わってしまった。目に映るのは、スマートフォンの画面だけ。
動画を保存する。指の震えが止まらない。それから写真フォルダを開く――そこには今日の午後、彼が送ってきた自撮りがあった。グレーのTシャツ。黒のジーンズ。『家族との食事会から抜け出せない』。
メッセージアプリを開く。先のやりとりまでスクロールする。『電波悪い。後で電話する』。
三年間。私たちはすべてを一緒に計画してきた。同じ大学、同じ街、私たちの未来のすべてを。一緒にお昼を食べられるように、彼の日程に合わせて授業を選んだ。彼がここに残りたいと言ったから、他の街でのサマーインターンだって断ったのに。
三年間。そして今、彼は別の女の子とここにいる。嘘をついて。私が一人でここに座って、頭の中で彼のための言い訳を考えている間に。
考えるより先に指が動いていた。私は打ち込んだ。「もう終わりね」
その言葉をじっと見つめる。まずは彼に尋ねるべき? 説明するチャンスを与えるべき? でも、どんな説明があり得るっていうの? 三時間離れた場所にいると彼は言った。偽物の写真を送ってきた。キスカムに別の女の子と映っている。これ以上、何を知る必要がある?
送信ボタンを押した。
それから彼をブロックした。インスタグラム、スナップチャット、電話番号。すべて。
「ねえ、大丈夫? お水、いる?」隣の女の子が私の腕に触れた。
彼女の方を向いたけれど、その顔はよく見えなかった。すべてが遠く感じられて、まるで他人事を見ているみたいだった。「私……行かないと」
立ち上がる。足が砕け落ちそうだったけれど、無理やり動かした。周りのみんなはまだ歓声を上げ、人生で最高の時間を楽しんでいる。
「お嬢さん、大丈夫ですか? 誰かお呼びしましょうか?」出口で警備員に呼び止められた。
「いえ。ただ……ここを出ないと。今すぐに」
警備員は脇へどいてくれた。私は夜の闇へと歩き出した。後ろではコンサートが続き、ドアを押し開けると音楽が遠ざかっていく。でも、胸の中ではまだベースの重低音がドクンドクンと鳴り響いているのを感じた。
あるいはそれは、ただ私の心が砕ける音だったのかもしれない。
寮までの帰り道が、果てしなく感じられた。
うつむいたまま、ただ歩き続けた。
ポケットのスマートフォンが震えた。一度。二度。十数回。私は見なかった。もし立ち止まったら、この歩道の上で崩れ落ちてしまいそうだった。
いつからこんなことが続いていたの? 彼は何度、私の目を見て嘘をついたの?
自分の住む建物。鍵を手に取るが、手がひどく震えて三回も失敗してしまった。
寮のドアを引いて開ける。
リリーの部屋の明かりを除けば、中は真っ暗。小さいながらも落ち着ける場所。壁には私たちの写真、ベッドの上にはフェアリーライト、窓辺には小さな多肉植物が2、3鉢。
すべてが、あるべき場所にちゃんとある。
もう二度と、何も元通りにはならない。
私はバッグを落とした。足の力が抜け、自分の部屋のベッドに崩れ落ちるように倒れ込み、天井を見上げた。一年生の時に貼った、暗闇で光る星たち。メイソンが貼るのを手伝ってくれた。彼が何度も曲がって貼るものだから、二人で笑い合った。
彼のことを考えるのはやめよう。
でも、できなかった。私の手は勝手に動き、スマートフォンを手に取り、動画を開いていた。そこに彼がいた。グレーのTシャツ。黒のジーンズ。彼の肩に寄りかかる、あの女の子の頭。カメラに気づいた時の、あのパニック顔。
私はそれを何度も、何度も見返した。
気づかないうちに泣いていた。涙が枕に染み込んでいく。静かにしていようとしたけれど、体が言うことを聞かず、抑えきれない嗚咽が体を震わせた。
どうしてこんなことができるの? どうして毎日、私の顔を見て嘘をつけられたの?
部屋のドアが開き、光が差し込んだ。
「ケナ?」心配そうなリリーの声。「どうしたの? なんで泣いてるの?」
答えられなかった。言葉が出ない。ただ、動画を再生したままのスマートフォンを差し出した。
リリーはそれを受け取り、画面を見た。彼女の顔は、戸惑いから恐怖へ、そして純粋な怒りへと変わっていった。
「あのクソ野郎」彼女は私の隣にどさりと座り、私を腕の中に引き寄せた。
私は彼女の肩に顔を埋め、崩れ落ちた。コンサート会場を出てからずっと抑えていた感情が、すべて溢れ出した。リリーは私を抱きしめ、優しく体を揺らしながら、「大丈夫、全部吐き出しな、私がついてるから」と囁いてくれた。
再びドアが開く。「何があったの? ケナ、大丈夫?」マヤの声だ。
続いてソフィー。「うそでしょ、何があったの?」
三人が私を取り囲んだ。私の親友たち。三人ともすぐそこにいて、私の肩に、背中に、髪に手を置いてくれる。私を守る輪がそこにあった。
「嘘、つかれてた」嗚咽の合間に言葉が漏れた。「彼、コンサートに別の女の子といたの。三時間離れた実家にいるって言ってたのに。偽物の写真まで送ってきて。それで、キスカムに彼女と一緒に映ってるのを見ちゃったの」
「は?」マヤの声が鋭くなった。
「見せて」ソフィーの手が私の手を見つけ、強く握りしめた。
もう一度見ることはできなかった。リリーが私のスマートフォンを彼女たちに渡した。動画が再生され、群衆が「キス! キス! キス!」と叫ぶ声と、彼女たちが息を呑む音が聞こえた。
「ああ、ケナ……」マヤが後ろから私を抱きしめた。
「別れた。ブロックした。ただ……」声がひび割れた。「自分がこんなに馬鹿だったなんて信じられない。彼が忙しいとか、スマートフォンの充電が切れたとか、何とか言ってた時……一体何回、本当は彼女と一緒にいたんだろう?」
「あなたは馬鹿じゃない」リリーの声は獰猛だった。「あいつが人を操るのがうまいクソ野郎なだけ。これはあなたのせいじゃない」
「全部話して」ソフィーが静かに言った。「最初から」
だから私は話した。どれだけ楽しみにしていたか。彼の直前の言い訳。あの通知。画面に彼を見た瞬間、すべてが止まってしまったこと。
彼女たちは、口を挟まずに聞いてくれた。私が話し終えると、私たちは静寂の中に座っていた。
「愛してたの」私は囁いた。どうしてこんなに痛いんだろう? 「本当に、愛してた」
「わかってるよ、ケナ。わかってる」マヤが私を強く抱きしめた。
私は彼中心にすべてを計画していた。彼がここに残りたいと言ったから、インターンを断った。彼のために、私のスケジュールを全部変えた。私たちは永遠だと、あんなに確信していたのに。
リリーがスマホを掴んだ。「ピザ注文する。あとアイスクリーム。それから、あんたが好きな、あのチーズブレッドスティックも」
「お腹空いてない」
「関係ない。食べるの」
一時間後、私たちは私のベッドと床に散らばり、空のテイクアウトの箱に囲まれていた。私は泣き疲れていた。今はただ、空っぽで、感覚が麻痺していた。
マヤはスマートフォンをスクロールしながら、ティックトックの何かを半分見ている。ソフィーは私の髪を編んでくれていて、その指遣いは優しい。リリーは私のベッドの足元に座り、ストレスからかブレッドスティックをむさぼり食っている。
「うそでしょ」
私たちは全員、マヤを見た。彼女の目は大きく見開かれていた。
「何?」リリーが尋ねた。
「誰かがキスカムの瞬間をティックトックに投稿してる」マヤの声は奇妙だった。「もう、五千いいねくらいついてる」
私の胃が、ずしりと落ちた。「……何?」
